エビデンスがないってどういうこと?
- happyhealthlab
- 2024年6月27日
- 読了時間: 3分
今日は少し毛色の違うトピックを扱おうかと思います.
最近は『エビデンス』という言葉も,テレビやインターネットでも用いられる機会が増えているように思いますので,ご存知の方も多いかもしれません.
医療の世界では,1990年代に「根拠をしっかりともって医療を行いましょう」というキャンペーンが世界的に起こり,それまでの「なんとなくの医療」ではダメですよ,という流れができました.これをEvidenced-based Medicineと呼んでEBMなんて言われたりします.
これは,専門家の意見(オピニオン)だけではなく,実験や研究などの客観的な根拠(証拠)を重要視して,目の前の患者さんに適応して医療を実践していくことが本質です.
怪しい専門家が「私の経験では...」というのを防ぐ方法となっていて,よく「論破〜」なんて言っているときに「エビデンスは?」とかって使われたりしてますよね(これを推奨しているわけではありません).
実はEBMを行うためには,いくつかの要素があります.

この中の1つがエビデンス(論文)なので,必ずしも「根拠がない」から意思決定してはいけないわけではありませんし,根拠とは異なる意思決定を行わないといけない場合(経済的な制約や患者さんの価値観など)もあります.理想的には,個別の制約を含めた研究(例えば,お金がない状況で選べる選択肢が限られる中で,どれが一番良かったかを調べた研究)があればいいのでしょうが,必ずしもそういう研究があるわけではありません.でも,目の前の患者さんのために選択をしないといけない場合もありますので,エビデンス(根拠)をもって様々な選択を行っていけるのが理想,というぐらいに思ってください.
さて,この「エビデンスがない」という表現は注意が必要で,「エビデンスがない ≠ 仮定が間違っている」ということを理解してください.
例えば,研究を行うテーマって,実は
多くの人が興味ある
今はまだ知られていない内容
になります.今更「重力」について証明しました,なんて論文は誰も興味を示しませんよね.
「新規性」という言葉がありますが,すでに多くの人が「そうだよね」と思っていることは研究テーマになりません.「みんながそうだよね,と思ってるけど,実は違うんですよ」はテーマになりますが,「みんながそう思ってることを,その通り証明しました」は,誰も興味を持ちませんよね.当然ですから.
ですから,ある仮定についての研究が存在しないということは,「その仮定が否定された」わけではないということです.「証明された研究がない」というだけです.
また「それは証明されていません」という言葉にも注意が必要です.
「証明されていない ≠ 否定された」ではないんです.ここも若干難しいですよね.
ある仮定について研究で証明された→ある仮定が真実である
ある仮定が真実ではない→ある仮定について研究で証明されない
この2つの命題は正しいですよね.真実でなければ研究で証明されるはずがありません.
では,
「ある仮定について研究で証明されなかった→ある仮定は真実ではない」
はどうでしょうか?実は研究って,色々な制約の下で実施されます.お金もそうですし,使えるリソースもそうです.完璧な研究ってないんですよ.その中で,研究デザインを工夫したり,いろいろな手段を使って,可能な限り真実を証明できるような研究を実施するのですが,1つの研究で証明されなくても制約がある中での研究だとすると,より良い研究を実施したらもしかしたら証明されるかもしれませんよね.このように,1つの研究で証明されなくても「真実とは証明できなかった」というだけであって,「偽の情報である」と断定したわけではありません.
どんなことでも根拠を持つことは重要ですが,多くの人が納得できるものであることが重要で,「エビデンス」という言葉を悪用する場合は注意をしましょう.


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